■近年の訴訟と判例にみられる主な法令等の概念図  
                                   
                                  各建築関係法令違反及び、技術的水準に関する建物の瑕疵は、その殆どが民法の瑕疵担保責任と不法行為又はその両方に含まれることになります。  
                                ■近年の判決により瑕疵が認められ原告(消費者)側が勝訴した施工不備等の具体的な法令と実例                                  
                                〔 1 〕建築の瑕疵に関する主な法令  
                                ① 建築基準法・施工令・告示・条例等の違反工事  
                                ・基準法に抵触する不適合な品質と施工全般  
                                ・業者が行なった違法改造などの脱法行為  
                                ② 建築士法違反と不法行為  
                                ・名義貸しを行なった建築士の責任  
                                ・不適切な工事監理を行った場合や、工事監理を行わなかったことにより、欠陥住宅を現出させた工事監理者の責任等  
                                ※ 国交省ホームページ参照:平成 17 ・ 18 年度一級建築士の処分事例について(第一回~三回)  
                                ③住宅の品質確保の促進等に関する法律・同施工令・告示違反  
                                ・建設住宅性能評価書等に表示された性能を有する新築住宅を引き渡すことの義務違反等  
                                ④ 日本建築学会標準仕様書(JASS等)、公庫標準仕様書等の各規定違反  
                                ・注意- 1 ;公庫仕様(利用)での契約でなくても公庫仕様に準ずると言及して契約していれば瑕疵、又は不法行為とみなされる場合あり。  
                                ・注意- 2 ;通常の請負契約の形態であっても日本建築学会標準仕様や日本建築センター・ JASS 等の諸基準や指針が採用され違法性を認めた判例があります。  
                                ⑤ 宅地造成規制法、同施工令違反  
                                ・ 擁壁の設計や施工など建築基準法に準ずるところの違法性が認められています。  
                                ⑥宅地建物取引業法違反と不法行為  
                                ・土地、建物についての不具合を知っていて又は、容易に知りえる立場にありながら説明をせずに契約や引き渡しをした場合など  
                                ⑦  消費者契約法違反  
                                ・不実の告知や消費者に不利な事柄の不告知(契約や契約行為自体に瑕疵がある場合等)  
                                ⑧  主たる契約の目的に関する仕様内容違反による瑕疵と不法行為(品質と性能)  
                                ・例えば:梁や柱の大きさについて基準法に強度上適合していることを建物が完成した後から証明しても、その目的物が契約上『特段』に定められた設計図の仕様寸法に反している場合等。  
                                ⑨  建材等の施工規定違反による瑕疵  
                                ・瑕疵の定義である、社会通念上必要とされる性能の欠如に抵触  
                                ⑩  建設業法違反と不法行為による瑕疵  
                                ・業法第 18 条;建設工事の請負契約の原則  
                                ・業法第 20 条;建設工事の見積り等  
                                ・業法第 22 条;一括下請けの禁止  
                                ・業法第 25 条の 25 ;施工技術の確保に関すること  
                                ⑪  その他の関係法令違反による瑕疵と不法行為  
                                ・上記の各法令等を契約内容に含めていた場合は違反や瑕疵又は不法行為になる場合と、含めていなくても違反や不法行為となる場合があり、逆に含めていなければ認められなかった場合もあります。尚、具体的な経緯については省略していますので御了承下さい。  
                                〔 2 〕建築の瑕疵に関する主な具体例 (構造:住居を対象とした全ての構造の建築物)  
                                ≪地盤≫  
                                ①  宅地造成工事の施工不備よる地盤沈下  
                                ・擁壁工事の設計や施工不備(割り栗石地業、配筋、コンクリート、水抜き穴の未設置等)による傾きや不等沈下  
                                ・埋め戻しの際の転圧不足による不等沈下  
                                ・不純物の混入や埋設等による不等沈下(建て替え時にも注意)  
                                ≪基礎≫  
                                ①  その地盤に対して不適切な基礎設計や施工(補強杭、地中梁、割り栗石地業、配筋、コンクリート強度に関すること等)  
                                ・砕石の転圧不足や厚み不足  
                                ・捨てコンクリートの未施工  
                                ・基礎及びベース部の寸法不足  
                                ・脱枠までのコンクリート養生期間の不足  
                                ・基礎低盤や立ち上がりのコンクリート 被り厚不足・ジャンカ・亀裂等  
                                ・基礎内部の地盤が外部より低い又は、止水の不備  
                                ≪構造(躯体)≫  
                                ①  基礎と土台木の緊結不足や芯ズレ等の施工不良  
                                ②  床組みや小屋組みの継ぎ手位置と仕口の施工不良  
                                ③  筋交いの不足や未設置等軸組みに関する施工不備  
                                ④  部材の断面寸法不足又は欠損  
                                ⑤  各所要構造金物の未設置や設置方法の不備等  
                                ⑥  溶接接合の方法又は溶接自体の不備(鉄骨造)  
                                ⑦  コンクリートの打設時の温度管理ミスや、雨天時の打設による硬化不良等  
                                ⑧  コンクリート躯体の 養生期間の不足・被り厚不足・ジャンカ・亀裂等 ( RC 造)  
                                ≪防水≫  
                                ①  建物外部の雨水の進入に係る各部の施工不良全般  
                                ・基礎内への雨水の浸入  
                                ・窓周囲や開口部など防水紙の施工不備や防水テープ等の未施工  
                                ・屋根部や、外壁と下屋との取り合い部の施工不良による漏水  
                                ・パラペット笠木部、貫通口周囲、バルコニー床の防水不良  
                                ≪断熱材≫  
                                ①  所要箇所への未敷設や欠如など施工方法の不備  
                                ・土台の際や、外部に面する「胴差し」上下部の施工不備による断熱欠損  
                                ・2 F の乗っていない1 F 天井裏の断熱材の未施工  
                                ≪設備≫  
                                ①  施工不備による破損や漏水  
                                ≪その他≫  
                                ①  地盤沈下による給水管や排水管の破損、漏水  
                                ②  防火構造上の不備や防火性能の欠如  
                                ③  基礎や躯体の違法なハツリ行為  
                                ④  防蟻未処理  
                                ⑤  漏水による構造材の腐朽や白蟻の被害等  
                                ⑥  不具合が専門家(プロ)以外の作業員により施工されたことが客観的に判断される場合等。また、そのことを知っていて黙認していたこと等。  
                                上記の不具合や瑕疵に関することは詳細且つ多岐に渡る為、その不具合等を抑止するには施工者としても総体的な建築知識と経験を要し、かつ、瑕疵などに対する認識も必要であることは確かですが、ここでのポイントは建築基準法などのようにこれまでも「法体系」として認識されてきたものであればともかく、瑕疵担保責任(民法 634 条)には社会通念上必要とされる建物の性能や技術的水準というものがあり、そのなかで瑕疵に該当する事柄や範囲はどこまでなのか、一般社会にも少しずつ浸透しつつあるものの、まだ業界関係者のなかでもその内容と結果の重大性について認識が低いのが現実のようです。よって、現在までに示されているこのような判例が実際の指標や目安になると思われますが、今後の判例の蓄積やその公表によっても広く認識されていくものと考えます。  
                                ちなみに、建築士の工事監理者としての責任についても最近の判例の傾向では前向きにその責任が明確化されてきつつあり、設計事務所の開設者や建築士に対しても不法行為による 賠償責任 を認める判決が出ていることも注目すべき点です。(平成 14 年松山地裁判決)  
                                コメント  
                                先に記述した事例は何れも適切な工事監理や注意義務等が果たされていたならば、あり得るはずのない施工不備ばかりです。そして、何れも原告である消費者が勝訴している判例の施工不備について、建築主はその建築会社をプロとして信頼して発注や購入をしている一般消費者(一般的には建築に対して素人の方)なのですから、業者側は住宅生産者(プロ)として「社会通念上、最低限必要とされる品質と性能(安全性)が保証された建物を建築し引き渡す」その責任を果たすべきことは売買であれ請負であれ当然のことです。まま双方共に大きなリスクを背負っていることは確かですが、やはり、建築問題の発生の多さや、消費者保護の観点に立てば弱い立場のものを擁護及び救済していくべきであると考えます。                                 
                                
                                  
                                    ■今回のレポートで皆さんにお伝えしたいことは・・・  
                                        建築会社並びに建築設計事務所と建築士の方へ  
                                        欠陥住宅問題(建築の品質・施工不備)に関する訴訟事は年々増加の傾向にあります。その傾向と上記の結果や判例を見ると、消費者側の知識不足や理想による要望の結果などとしての抗弁は殆んど認められません。  
                                        適切かつ適法な施工や工事監理がなされていなかったことにより、欠陥住宅として訴訟になるなど、その事実が立証されれば風評被害的なことも含めて、当然に高額賠償等の不利益な判決を呑まざるを得なくなるのです。また、同類の瑕疵や訴訟に至っては一度でもその判例があれば、その判例自体が一つの法律になってしまうと言っても過言ではないくらいです。従って、住宅生産者として、建築会社や建築士の責任の重さは重大です。  
                                        是非、瑕疵の内容や瑕疵担保責任に対する認識を深めて戴き、契約時の受注・発注体制、設計や施工体制、工事の監理体制、施工マニュアルの見直しなど再チェックをしてみる必要があるのではないでしょうか。  
                                        一般消費者(建築主)の方へ  
                                        新築の場合、本来は建築段階で『真の第三者機関や専門家』による工事監理や建築検査を依頼し、事前に建築トラブルを抑止することが大変有意義なことであることは言うまでもありません。  
                                        既存建物である場合、先に記述している判例が一概に貴方の抱えている問題と必ずしも符合するとは限りませんし、また、その不具合や欠陥を立証すること及び、その相手方との交渉等は容易ではない為、建築検査等の専門家や専門の団体等に依頼されることをお薦めします。 
                                        今回、同じような類例の不具合や不安があれば、その判断のお役に立てばとの趣旨で、既に示されている欠陥住宅に対する判例の一部を概略で掲載しました。 | 
                                   
                                                                  |